【医師が監修】NIPTのカウンセリングは必要ですか?
目的/概要
- NIPTの遺伝カウンセリングは法的義務ではないが、検査の性質上、検査前後の専門家による情報提供が不可欠である
- カウンセリングは検査前と検査後の2段階に分かれ、結果の正しい理解と意思決定を支援する
- 非認証施設で検査を受けた場合も、別施設でカウンセリングを受けることが可能である
目次
1. 結論:NIPTカウンセリングは法的義務ではないが、強く推奨される
NIPT(非侵襲的出生前遺伝学的検査)における遺伝カウンセリングは、法律で義務付けられているわけではありません。ただし、検査の性質上、検査前後における専門家による十分な遺伝カウンセリングが必要であると、日本医学会出生前検査認証制度等運営委員会の指針において明確に位置づけられています(1)。
「受けなくてもよい」ということと「受けないほうがよい」は全く意味が異なります。本記事では、NIPTにおけるカウンセリングとは何か、なぜ重要なのか、そして検査前・検査後にどう活用できるのかについて、医師の立場から解説します。
2. NIPTにおけるカウンセリングとは?基本知識

NIPTのカウンセリングは「検査前カウンセリング」と「検査後カウンセリング」の2段階に分かれます。日本医学会出生前検査認証制度等運営委員会の指針では、NIPTを行う際には検査の前後に遺伝カウンセリングを行い、妊婦が十分な情報を得た上で自分自身で判断できる環境を整えることが重要とされています(1)。
2-1. 検査前カウンセリングの内容
検査前カウンセリングでは、以下の項目について医師や遺伝の専門家から説明を受けます。
- NIPTの仕組みと原理
- 検査の精度と限界
- 結果が出た後の選択肢
- 検査対象となる染色体異常の特徴
- 生まれた後の生活・支援体制
2-2. 検査後カウンセリングの内容
検査後カウンセリングは、結果を受け取った後に、その意味を正しく理解し、次のステップを考えるための場です。特に結果が「高リスク」だった場合には、羊水検査などの確定診断を受けるかどうかについて、専門家と一緒に検討する重要な機会となります。
2-3. 認証施設と非認証施設の違い
NIPTを提供する施設には、出生前検査認証制度等運営委員会の認証施設と非認証施設があり、カウンセリングの提供体制が異なります(2)。認証施設では、産婦人科専門医・小児科専門医・臨床遺伝専門医・認定遺伝カウンセラーなどによる支援体制が整備されています(2)。
非認証施設でNIPTを受けた場合でも、かかりつけの産婦人科や遺伝専門外来でカウンセリングを受けることが可能です。検査を受ける施設とカウンセリングを受ける施設が別であっても、必要なサポートを組み合わせて利用することは十分に可能です。seeDNA遺伝医療研究所では、検査結果が高リスクとなった場合に、近隣の医療機関で遺伝カウンセリングを受けるためのカウンセリング費用補助制度を設けています(3)。
| 項目 | 認証施設 | 非認証施設 |
|---|---|---|
| カウンセリング提供 | 検査前後で実施が原則 | 施設により異なる |
| 検査対象疾患 | 13・18・21トリソミーに限定 | 全染色体や微小欠失も含む施設あり |
| 年齢制限 | 原則あり | 原則なし |
| 結果後の連携 | 基幹施設と連携体制あり | 個別対応 |
3. なぜNIPTにカウンセリングが必要なのか

3-1. NIPTは「確定診断」ではない
NIPTは非常に精度の高い検査ですが、確定診断ではありません。偽陽性(実際には異常がないのに高リスクと出ること)や偽陰性(実際には異常があるのに低リスクと出ること)が生じる可能性があります。
偽陽性の主な原因の1つとして知られているのが「胎盤限局性モザイク(Confined Placental Mosaicism:CPM)」です。これは胎盤の細胞と胎児の細胞で染色体構成が異なる現象を指します。NIPTで検出される細胞外DNA(cfDNA)の大部分は胎盤の細胞栄養膜由来であるため、胎盤にのみ染色体異常がある場合に偽陽性が生じます(4)。高リスクの結果が出た場合には、羊水検査や絨毛検査などの確定診断を受ける必要があります。
こうした検査の性質を正確に理解した上でNIPTを受けるには、事前の情報提供が不可欠です。カウンセリングは、この「正しく理解する」プロセスを支える場として機能します。
3-2. 心理的な負担は想像以上に大きい
NIPTに伴う心理的負担については、複数の研究で報告されています。Richmondらの研究では、陰性結果を受けた場合には短期的な不安が軽減される一方、高リスク結果を受けた女性では高い不安が生じることが報告されています(5)。
さらに、Bakkerenらによるスコーピングレビューでは、NIPTで陽性結果を受けた女性のサブグループ(n=26)において、結果受領後に高い不安レベルが認められたことが示されています(6)。また、名古屋大学で実施された3,743名を対象とした研究では、NIPT実施前の段階で7.5%の女性がK6スコア10以上(不安・抑うつの傾向を示す閾値)を示し、事前から心理社会的な状態に目を向けることの重要性が指摘されています(7)。
カウンセリングには、こうした心理的負担を軽減し、検査結果を冷静に受け止められるよう備える機能があります。
3-3. 後悔のない意思決定のために
出生前検査は、単なる医療行為にとどまらず、生命倫理や個人の価値観に深く関わるテーマです。カウンセリングには、検査の利点と限界を偏りなく伝え、妊婦自身が自律的に意思決定できるよう支援する役割があります(1)。情報が不十分なまま検査を受けると、予期しない結果に直面した際に混乱が生じ、後悔につながる恐れがあります。
4. カウンセリングを受けずにNIPTを受けるリスク

カウンセリングなしにNIPTを受けた場合、以下のリスクが生じる可能性があります。
- 結果の誤解:高リスク結果を「確定診断」と受け止め、確認検査を経ずに判断してしまうリスクがあります。
- 心理的フォローの欠如:不安や動揺を感じた際に専門家へ相談できる場がないまま、結果と一人で向き合うことになります。
- 情報不足による後悔:検査の限界や代替手段について十分に理解しないまま検査を受けたことで、「あらかじめ知っていれば選択が違った」と感じるケースがあります。
5. 検査前後で確認すべきポイント

どの施設でNIPTを受ける場合でも、検査の前後に以下の点を意識することを推奨します。
- 検査結果の意味と限界について、医師から説明を受ける機会があるか
- 高リスク結果が出た際、確定診断(羊水検査・絨毛検査)の受診先について相談できるか
- 結果を受け取った後、精神的なサポートを求める場合の相談先を事前に把握しておく
6. サマリー
NIPTにおける遺伝カウンセリングは、法的には義務付けられていません。しかし、検査の性質上、結果の解釈には専門知識が必要であり、心理的な負担も少なくないことが複数の研究で示されています。
カウンセリングとは、単なる「説明の時間」ではなく、妊婦自身が納得して意思決定するためのプロセスです。どの施設でNIPTを受けるかにかかわらず、検査の前後にカウンセリングを受ける機会を積極的に活用することが推奨されます。大切な赤ちゃんのこと、そしてご自身の気持ちに丁寧に向き合うために、専門家のサポートを活用してください。
7. FAQ
Q1. NIPTを受ける前に必ずカウンセリングを受けなければなりませんか?
法律上の義務はありません。ただし、日本医学会出生前検査認証制度等運営委員会の指針では、検査前後の遺伝カウンセリングが必要とされています(1)。
Q2. 検査を受ける施設とカウンセリングを受ける施設は別でもよいですか?
別でも問題ありません。非認証施設でNIPTを受けた場合でも、かかりつけの産婦人科や遺伝専門外来でカウンセリングを受けることができます。
Q3. カウンセリング費用はどのくらいかかりますか?
施設により異なります。seeDNA遺伝医療研究所では、検査結果が高リスクの場合、カウンセリング費用を1回あたり上限3万円まで負担する制度を設けています(3)。
Q4. NIPTの結果が高リスクだった場合、必ず確定診断を受ける必要がありますか?
NIPTは確定診断ではないため、高リスクの結果が出た場合は羊水検査や絨毛検査などの確定診断による確認が推奨されます(4)。
Q5. カウンセリングではどのような内容を相談できますか?
検査の仕組み・精度・限界、結果の解釈、確定診断の選択肢、心理的な不安、検査対象疾患の特徴と支援体制など、検査と結果に関するあらゆる事項を相談できます(1)。
参考文献
(1)日本医学会 出生前検査認証制度等運営委員会「NIPT等の出生前検査に関する情報提供及び施設(医療機関・検査分析機関)認証の指針」2022年
(2)こども家庭庁 出生前検査認証制度等啓発事業「NIPTを実施する認証施設」2024年
(3)seeDNA遺伝医療研究所「新型出生前診断(NIPT)」2025年
本記事は日本医学会・こども家庭庁の公開資料、および査読付き国際学術誌の論文をもとに作成しています。医療的な判断については必ず専門の医療機関にご相談ください。
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医学博士・医師 広重 佑(ひろしげ たすく)
医学博士、日本泌尿器科学会専門医・指導医、がん治療学会認定医、抗加齢医学会専門医、日本医師会認定産業医、日本抗菌化学療法学会認定医、性感染症学会認定医、Certificate of da Vinci system Training As a Console Surgeonほか
2010年に鹿児島大学医学部を卒業後、泌尿器科医として豊富な臨床経験を持つ。また、臨床業務以外にも学会発表や論文作成、研究費取得など学術活動にも精力的に取り組んでいる。泌尿器科専門医・指導医をはじめ、がん治療、抗加齢医学、感染症治療など幅広い分野で専門資格を取得。これまで培った豊富な医学知識と技術を活かして、患者様一人ひとりに寄り添った医療を提供している。
