【医師が監修】NIPTの全染色体検査とは?3大トリソミー検査との違いを知ろう
NIPTの「全染色体検査」とは、1番から22番までの常染色体すべてを対象に、染色体の数の変化を調べる検査です。3大トリソミー検査で分かる範囲をカバーしつつ、幅広い情報が得られます。
記事の目的・概要
- 全染色体検査(1〜22番染色体)で分かること・分からないことの明確化
- 3大トリソミー検査との違いや、稀な常染色体トリソミー(RAT)に関する注意点の整理
- 高リスクと判定された際の遺伝カウンセリングや確定検査など、具体的な対応手順の解説
目次
1. NIPTの「全染色体検査」とは?3大トリソミー検査との違いを知ろう

NIPTは、採血だけで赤ちゃん側由来のDNA断片を解析し、染色体の数の変化の可能性を調べる検査です。「全染色体検査」は、3大トリソミーに加え、1〜22番までのすべての常染色体を調べます。
NIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査)は、妊婦さんの血液に含まれる赤ちゃん側(主に胎盤)由来のDNA断片を解析し、染色体の数の変化の可能性を調べる検査です。採血だけで行えるため、検査自体による流産のリスクがないことが大きな特徴です。
NIPTで最も広く行われているのが、21トリソミー(ダウン症候群)、18トリソミー(エドワーズ症候群)、13トリソミー(パトウ症候群)を対象とする「3大トリソミー検査」です。大規模なメタアナリシスでは、21トリソミーの検出率は99.7%と報告されており、高い精度をもつスクリーニング検査として位置づけられています[1]。
一方、「全染色体検査」は、1番から22番までの常染色体すべてを対象に、染色体の数の変化を調べる検査です。3大トリソミー以外の染色体についても情報が得られる反面、結果の解釈には特有の注意点があります。本記事では、全染色体検査で分かること・分からないことを、医師の立場からわかりやすく解説します。
2. 全染色体検査(1〜22番染色体)で分かること

全染色体検査では、3大トリソミーのほか、稀な常染色体トリソミー(RAT)や、一部の大きな部分欠失・部分重複を調べることができます。
3大トリソミー
全染色体検査は1〜22番すべてを対象とするため、21番・18番・13番のトリソミーも含まれます。3大トリソミー検査で分かる範囲は、全染色体検査でもカバーされています。
稀な常染色体トリソミー(RAT)
3大トリソミー以外の常染色体トリソミーは「稀な常染色体トリソミー(RAT:Rare Autosomal Trisomy)」と呼ばれます。代表的なものに16番、22番、7番のトリソミーなどがあります。
これらは妊娠初期に流産に至ることが多く、出生に至るケースはまれです。約9万件のNIPTデータを解析した研究では、検査を受けた方の約0.3〜0.4%がRATで高リスクと判定され、流産や胎児発育不全、子宮内胎児死亡などの妊娠中の問題と関連していたことが報告されています[2]。
つまり、RATが高リスクと判定された場合、胎児だけでなく胎盤の状態にも注意を払うきっかけになり得ます。
一部の大きな部分欠失・部分重複
染色体の変化には、染色体が1本まるごと増減する「数の変化」のほかに、染色体の一部分だけが欠けている(部分欠失)、あるいは一部分だけが余分にある(部分重複)といった「構造の変化」もあります。
全染色体検査は主に「数の変化」を調べる検査ですが、検査機関によっては、こうした部分欠失・部分重複のうち、ある程度大きなものも結果として報告されることがあります。ただし、どのくらいの大きさの変化まで調べられるのか、そもそも部分欠失・部分重複を報告の対象にしているのかは、検査機関によって異なります。
検査を申し込む前に、「部分的な欠失や重複も結果に含まれるのか」を確認しておくと安心です。
| 分かることの分類 | 検査内容と特徴 |
|---|---|
| 3大トリソミー | 21番・18番・13番のトリソミー(3大トリソミー検査で分かる範囲をカバー) |
| 稀な常染色体トリソミー(RAT) | 16番、22番、7番などのトリソミー。流産や胎児発育不全などと関連 |
| 部分欠失・部分重複 | 染色体の一部分の構造の変化。検査機関によって報告対象や大きさが異なる |
3. 全染色体検査でも分からないこと・注意すべきこと

NIPTは確定診断ではなく、胎盤限局性モザイクや母体側の要因による影響を受けます。また、微細欠失や単一遺伝子の病気は対象外です。
確定診断ではない
NIPTはあくまでスクリーニング検査であり、全染色体検査も同様です。高リスクと判定されても、必ずしも赤ちゃんに染色体の変化があるわけではありません。
胎盤由来DNAによる影響
NIPTで解析しているDNAは、主に胎盤に由来します。そのため、胎盤にだけ染色体の変化があり、赤ちゃん自身には変化がない「胎盤限局性モザイク」という状態では、実際には赤ちゃんの染色体が正常でも高リスクと判定されることがあります[3]。
特にRATはこの胎盤限局性モザイクによるものが多いとされています。オランダで一般の妊婦さんを対象に行われた全国規模の研究では、RATで高リスクと判定されたうち、実際に赤ちゃん自身の染色体の変化として確認されたのは、そのうちわずか6%でした[4]。
母体側の要因
まれに、妊婦さん自身の染色体の変化や、妊婦さんに生じた腫瘍などが結果に影響し、高リスクと判定されることもあります[5]。
対象外の疾患
全染色体検査では、ごく小さな微細欠失、単一遺伝子の病気、心臓などの形態的な異常、発達の特性などは分かりません。また、米国臨床遺伝・ゲノム学会のガイドラインでも、RATのスクリーニングについては、現時点では推奨するのに十分なエビデンスがないとされています[6]。
「すべての染色体を調べる=すべての病気が分かる」わけではない点を理解しておきましょう。
4. 全染色体検査で高リスクと判定されたら?

落ち着いて遺伝カウンセリングを受け、羊水検査などの確定検査や、妊娠経過の慎重な観察、片親性ダイソミーの可能性を検討します。
まずは遺伝カウンセリングを
高リスクと判定された場合でも、まずは落ち着いて、遺伝カウンセリングで結果の意味を詳しく説明してもらいましょう。どの染色体で高リスクと判定されたかによって、その後の考え方は大きく異なります。
確定検査の選択
赤ちゃん自身の染色体を確認するには、羊水検査や絨毛検査などの確定検査が必要です。絨毛検査は胎盤の組織を調べるため、胎盤限局性モザイクの影響を受ける可能性があります。
そのため、RATで高リスクと判定された場合には、対象となる染色体や妊娠週数などを考慮し、羊水検査が選択されることがあります[7]。
妊娠経過の慎重な観察
RATで高リスクと判定され、確定検査で赤ちゃんの染色体に変化がなかった場合でも、胎盤に染色体変化が存在し、胎盤機能に影響している可能性があります。超音波検査で赤ちゃんの発育を定期的に確認するなど、妊婦健診で慎重に経過を見ていくことが勧められます[2]。
片親性ダイソミーの可能性
また、特定の染色体で高リスクと判定された場合には、「片親性ダイソミー」の可能性も考慮されます。これは、本来父親と母親から1本ずつ受け継ぐはずの染色体を、2本とも片方の親からだけ受け継いでいる状態です。受精後の発育過程で、3本あった染色体のうち1本が失われ、2本に戻る際に起こることがあります[8]。
染色体の本数は正常であり、必ずしも健康上の問題が生じるわけではありませんが、15番や7番など一部の染色体では、プラダー・ウィリー症候群やシルバー・ラッセル症候群などの病気につながることがあります。そのため、確定検査で染色体の本数が正常と確認されても、羊水を用いた追加検査が検討されることがあります[9]。
高リスクと判定された際の確認チェックリスト
▶ 遺伝カウンセリングで結果の意味を詳しく説明してもらう
▶ 羊水検査や絨毛検査などの確定検査の選択を検討する
▶ 超音波検査で赤ちゃんの発育を定期的に確認する(妊娠経過の慎重な観察)
▶ 15番や7番など一部の染色体では片親性ダイソミーの可能性を考慮する
5. サマリー:全染色体検査の特徴と限界を理解し、自分に合ったNIPTを選ぼう
全染色体検査は幅広い情報が得られる一方、胎盤限局性モザイクの影響も多く、何が分かり何が分からないのかを事前に理解しておくことが大切です。
全染色体検査は、3大トリソミーに加えて、1〜22番すべての常染色体の数の変化を調べられる検査です。より幅広い情報が得られる一方で、追加で分かる稀なトリソミーは胎盤限局性モザイクによるものが多く、高リスクと判定されても赤ちゃん自身には異常がないケースが少なくありません。
大切なのは、「何が分かり、何が分からないのか」を検査前に理解しておくことです。3大トリソミー検査と全染色体検査、それぞれの特徴と限界を知ったうえで、ご自身の希望や考え方に合った検査を選びましょう。不安や疑問があれば、遠慮なく医師や遺伝カウンセラーに相談してください。
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6. よくある質問(FAQ)
Q. 3大トリソミー検査とは何ですか?
A. 21トリソミー(ダウン症候群)、18トリソミー(エドワーズ症候群)、13トリソミー(パトウ症候群)を対象とする検査です。
Q. NIPTの検査自体による流産のリスクはありますか?
A. 採血だけで行えるため、検査自体による流産のリスクがないことが大きな特徴です。
Q. 稀な常染色体トリソミー(RAT)で高リスクと判定された場合、どうなりますか?
A. RATはこの胎盤限局性モザイクによるものが多いとされています。実際に赤ちゃん自身の染色体の変化として確認されたのは、そのうちわずか6%でした[4]。
Q. 全染色体検査を受ければ、すべての病気が分かりますか?
A. ごく小さな微細欠失、単一遺伝子の病気、心臓などの形態的な異常、発達の特性などは分かりません。「すべての染色体を調べる=すべての病気が分かる」わけではない点を理解しておきましょう。
Q. 確定検査はどのようなものが選択されますか?
A. 羊水検査や絨毛検査などの確定検査が必要です。絨毛検査は胎盤限局性モザイクの影響を受ける可能性があるため、羊水検査が選択されることがあります[7]。
7. 参考文献
[1] Ultrasound in Obstetrics & Gynecology、2017年
[2] Science Translational Medicine、2017年
[3] Genetics in Medicine、2014年
[4] American Journal of Human Genetics、2019年
[5] Journal of the American Medical Association、2015年
[6] Genetics in Medicine、2023年
[7] Prenatal Diagnosis、2020年
[8] Prenatal Diagnosis、2021年
[9] Genetics in Medicine、2020年
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医学博士・医師 広重 佑(ひろしげ たすく)
医学博士、日本泌尿器科学会専門医・指導医、がん治療学会認定医、抗加齢医学会専門医、日本医師会認定産業医、日本抗菌化学療法学会認定医、性感染症学会認定医、Certificate of da Vinci system Training As a Console Surgeonほか。
2010年に鹿児島大学医学部を卒業後、泌尿器科医として豊富な臨床経験を持つ。また、臨床業務以外にも学会発表や論文作成、研究費取得など学術活動にも精力的に取り組んでいる。泌尿器科専門医・指導医をはじめ、がん治療、抗加齢医学、感染症治療など幅広い分野で専門資格を取得。これまで培った豊富な医学知識と技術を活かして、患者様一人ひとりに寄り添った医療を提供している。
