恐竜が哺乳類の寿命に影響を与えた可能性
ティラノサウルス・レックス(Tyrannosaurus rex)、スピノサウルス(Spinosaurus)、アルバートサウルス(Albertosaurus)などの恐竜が、今から6,500万年前に絶滅するまで、この地球上を約1億年間支配していました。
この恐竜達による長い支配により、多くの爬虫類でみられる長寿に関わる遺伝的特徴が、哺乳類から消えてしまった可能性があることが最近の研究で分かりました[1]。
「長寿のボトルネック」という研究
現在は、恐竜に代わって哺乳類が地球を支配していますが、残念ながら、私たち人間がその優位性を享受できる寿命は80年程度しかありません。それでも人間の平均寿命は哺乳類の中では長く、一部のクジラだけが、人間を上回る寿命を持っています。
しかし、亀などの爬虫類や一部のサメなど、長寿で有名な生物の中には、300年以上生きる種もあり、植物では1,000年以上の寿命を持つ種もあります。
では、なぜ人間を含む哺乳類の寿命は、これらの生物と比べて短命なのでしょうか?
その理由として、著名な老化科学者、ジョアン・ペドロ・デ・マガリャエス博士は、BioEssays誌に掲載された「長寿のボトルネック」の中で、巨大な爬虫類である恐竜による長い地球の支配が影響したという仮説をもとに研究した内容を説明しています。
「急いで生きて、早く死ぬ」という進化
恐竜が支配していた時代の哺乳類は、小さく夜行性で短命でした。天敵が多いなかでは、長寿をもたらす遺伝的特性よりも捕食される前に繁殖して子孫を残すことが種の持続に繋がるため、その時代の哺乳類は「急いで生きて、早く死ぬ」という早く老化する進化が必要だったのです。
また「拮抗的多面発現」という、若いうちは生物にとって役に立つが、年をとるにつれて悪い影響を及ぼす遺伝子の特性が進化の過程で選択されることも、最大寿命と生物の体の大きさの正の相関関係の要因と考えられています。
デ・マガリャエス博士は、「急いで生きて、早く死ぬ」こそが、哺乳類が恐竜時代を生き抜く進化であり、この時代に哺乳類から長寿という特性が失われたと考えました。
恐竜の支配した時代に失った特性の一つに、歯の再生能力も含まれるとしています。象を例にすると、歯の再生能力が無いことが、象の寿命に大きな影響を与えています。自然界の象は、最後の歯がすり減ってしまった後は、食物を摂取することができなくなり餓死することがあるからです。
また、恐竜の時代に哺乳類が失ったとされるもう一つの特性に、フォトリアーゼDNA保護システムという能力もあります。フォトリアーゼは、紫外線などでDNAが破損した場合に修復する特性をもった酵素です。まだ憶測の段階でありますが、この特性の欠如は恐竜時代の哺乳類は夜行性であったため、進化の過程で紫外線に対する防御能力を失ったと考えられています。
老化に関する研究
哺乳類と爬虫類における違いは、老化の速度もあります。200年もの寿命があるといわれているガラパゴスゾウガメは、長寿であるだけではなく、肉体も哺乳類にみられるような速いペースの老化がありません[2]。
人間の場合、約8年ごとに死亡率が倍増すると言われていますが、爬虫類の死亡率は年齢と共に増加せずに、一部では生涯にわたり成長を続け、繁殖能力を維持する種もいます。
哺乳類ではハダカデバネズミだけが、爬虫類のようなゆっくりとした老化をすると考えられていましたが、最新の研究では、彼らにも肌の老化などが起きることが明らかになりました[3]。
もうひとつ、哺乳類が短命である理由として、哺乳類が温血動物であることが原因とする考えもあります。爬虫類や両生類と違い、温血動物であることが哺乳類の老化を加速させているという考え方です。しかし、デ・マガリャエス博士はこの考えを否定しています。なぜなら、恐竜の直系子孫である鳥類は小さな体で多くのエネルギー消費する温血動物なのですが比較的長寿であるからです。
今から約6,500万年前に起きた恐竜の絶滅後、哺乳類は天敵である恐竜の恐怖から解放されました。その後、哺乳類は多種多様な進化を遂げてきましたが、今でも寿命に関しては爬虫類、鳥類、両生類の長寿命種とは大きな差があります。
デ・マガリャエス博士によるこの仮説は、現代の老化科学がすぐに発展するような大きな影響力のある研究ではないかもしれません。しかし、このような研究が、哺乳類、特に人間の寿命に関する理解に役立つかもしれません。現在の老化科学は、他の動物にみられる長寿のメカニズムを研究して、人間に適応させることが基本的な考えとなっています。例えば、デ・マガリャエスが言及したフォトリアーゼ保護システムが、遺伝子組み換えマウスのDNA修復を改善することで発見された [4] ように、他の生物にみられる長寿命に関するメカニズムが解明され、いつの日か人間に適応される時がくるかもしれません。
現在、バーミンガム大学の炎症と老化研究所の分子生物老化学教授であるデ・マガリャエス博士は、この研究について、ヴェラ・ゴルブノヴァやアシュリー・ゼンダーのインタビューで、自身の考えについて次のように説明しています。
「『長寿のボトルネック』は、哺乳類が何百万年もかけて進化した老化に関する特性を解明する手掛かりになるかもしれません。私たち人間は哺乳類の中では長寿ですが、多くの爬虫類、両生類などのような、非常にゆっくりとした老化ではありません。恐竜の時代の哺乳類は食物連鎖の底辺にいたため、恐竜が地上を支配していたおよそ1億年の間に、早く繁殖ができるように進化したと考えられています。恐竜の支配という圧力による進化が、私たち人間の老化にも影響を与えていると考えています。」
[1] de Magalhães, J. P., (2023), The longevity bottleneck hypothesis: Could dinosaurs have shaped ageing in present-day mammals?, BioEssays.
[2] da Silva, R., Conde, D. A., Baudisch, A., & Colchero, F., (2022), Slow and negligible senescence among testudines challenges evolutionary theories of senescence., Science.
[3] Buffenstein, R. (2008), Negligible senescence in the longest living rodent, the naked mole-rat: insights from a successfully aging species., Journal of Comparative Physiology.
[4] Schul, W., Jans, J., Rijksen, Y. M., Klemann, K. H., Eker, A. P., De Wit, J., … & Van der Horst, G. T. (2002). Enhanced repair of cyclobutane pyrimidine dimers and improved UV resistance in photolyase transgenic mice., The EMBO journal.
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